利根川下流域の「水郷」として知られる千葉県香取市。県内有数の歴史風土を誇るこの地で、歴史的建造物と現代アートが融合するアート展を開催します。
はるか昔から、香取海(かとりのうみ)、利根川水運と、水の恵みを受け「江戸優り」と謳われるほど発展した香取市佐原。その町並みは今も「重要伝統的建造物群保存地区」として保存され、かつての賑わいを偲ばせます。
中でも「与倉屋大土蔵」と「佐原三菱館」は、明治・大正と年代が古いだけでなく、果たした役割の点でも商業都市佐原を象徴する存在です。
今回、香取市を拠点とするアーティスト・志村信裕が、この2つを会場に、空間の特性を活かした映像によるインスタレーション(空間芸術)を手掛けます。
また、別会場では香取・佐原を描く2人の作家、アニメトーイと野口正博の作品を展示。
ここにしかない時間と空間が織りなすアート体験=”香取・アート・タイム”をお楽しみください。
志村信裕 展示会場図面・作家による解説
katori_art_timeA3map 志村信裕 展示会場図面・作家による解説 ダウンロード歴史が宿る”生きている街”
香取市佐原。
街を歩けば、その豊かな歴史に触れることができます。
千葉県北東部に位置するこの地は、太古より内海「香取海(かとりのうみ)」の恩恵を受け、かつてのほとりに由緒深き香取神宮が鎮座します。
江戸時代には、江戸を支える利根川水運の河港商業都市として「江戸優り」と謳われる繁栄を誇り、また、実測日本地図で知られる伊能忠敬などを輩出しました。
中でも、香取神宮の参道へ続く街道と、利根川の支流である小野川が交差する一帯は中心街として発展し、現在は国選定の「重要伝統的建造物群保存地区」となっています。
そして、往時の面影を町並みに宿しながら、今もなお、店や生活が営まれる街として生き続けています。
”河港商業都市”を象徴する2つの建物
そんな佐原の街に現存する、象徴的な建造物が2つ。
「与倉屋大土蔵」と「佐原三菱館」。
どちらも、佐原の繁栄があったからこそ造られた建物です。
「与倉屋大土蔵」は、明治22年(1889年)に醤油の醸造蔵として建造された日本最大級の土蔵です。利根川支流である小野川の水運により発展した佐原には、川沿いに数多くの河岸、そして蔵がありました。
中でも与倉屋の菅井家は、19世紀から戦前にかけて、佐原ばかりか県下でも有数の商家であり続けました。
その大土蔵は500畳余りの広さを誇り、昭和35年頃からは政府米指定庫として5万俵の米を保管していました。
中に入ると、外観からは想像できない大空間が広がります。むき出しの柱や梁が幾重にも重なる光景は、ある種の異様さを持ち、一見の価値があります。
かたや「佐原三菱館」は、かつての三菱銀行佐原支店本館であり、元をたどれば、大正3年(1914年)に川崎銀行佐原支店として建造されたものでした。
すでに明治半ばには前身の佐原出張所が開設されており、東京の金融機関が早くから進出していた事実は、明治の世でも変わらず、佐原が地域経済の要衝であったことを物語ります。
それだけでなく、地元の人々に愛されたがゆえに建て替えも免れた経緯もあり、この建物は1世紀以上、佐原の街のシンボルであり続けています。
赤レンガが映える洋風建築でありながら、周囲の町並みと調和を保ち、内部にも螺旋階段をはじめ優美な造形が施されています。
令和元年度からの3年間の保存修理工事を終えた現在は、100年の時を超え、復元された新築当初の姿を目にすることができます。
佐原の歴史とアートが出会う時間
今回、この歴史的建造物を会場とした史上初めてのアート展『香取・アート・タイム』を開催します。
アーティストは、志村信裕。
展示空間の特性を活かした映像によるインスタレーション作品を数多く手掛け、近年は地域固有の事象をリサーチした作品制作が評価を高めています。
これまで国内外各地に滞在して作品制作を行い、現在は香取市に居を構え活動しています。
ここにしかない時間と空間が織りなすアート
今回、志村は地元を代表するカメラマン・故松田光雅氏(1900-1992)が撮影した映像を掘り起こしました。
松田氏は、昭和初期から末期にかけて佐原で写真館を営む傍ら、人々の生活や行事、水郷と呼ばれる当地の自然など、気の赴くままに16ミリフィルムや8ミリフィルムの映像に収めました。
抜群の感性と技術で他の追随を許さない作品づくりが地元の尊敬を集め、先生と慕われた松田氏。
その一方で、こだわりぬいて完成した作品をめったに見せることが無かったという孤高の一面もあったとも言われます。
その松田氏の秘蔵の映像群から、16ミリフィルムで撮影された代表作《水郷を行く》(1959年)を筆頭に志村が選んだ作品を今展で公開。松田氏と同じく映像をあつかう志村の視点によって、志村自身の作品と融合した展示を行います。
制作から半世紀以上の時を経て日の目を見る貴重映像が、アーティスト志村信裕の手により新たな命を吹き込まれ、与倉屋大土蔵や佐原三菱館が醸し出す雰囲気と相まって、新たな鑑賞体験に誘います。
他にも、与倉屋大土蔵、佐原三菱館の2会場に合わせて、志村のこれまでの代表的な作品を展示。佐原の近代を象徴する歴史的建造物が、唯一無二のアート空間になります。
香取を描くアーティスト
別会場「みんなの賑わい交流拠点KOMPAS(コンパス)」では、タイ王国の水彩画家 アニメトーイ、地元佐原で30年以上の創作活動を続ける切り絵作家 野口正博の作品を展示。
それぞれの視点とスタイルで表現された香取・佐原の情景からは、臨場感と情緒があふれ、その場の空気さえも感じることができます。
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